達成確率50%を、運用し続ける——目標の難易度を、横に並べて見る
この連載について
目標を立て、日々の仕事の中で進捗を確認し、対話を重ね、年度末に評価する。言葉にすると当たり前ですが、これを実際の組織で機能させ続けるのは簡単ではありません。この連載では、パフォーマンスマネジメントを手続きとしてではなく、経営とマネジメントの中で運用している方々を訪ねます。
今回お話を伺ったのは、三越伊勢丹グループの物流会社、株式会社三越伊勢丹ビジネスサポート 代表取締役社長で、株式会社三越伊勢丹ホールディングス 執行役員の藤森健至さんです。インタビューには、コレドウの曽良と顧問の志水静香が参加しました。
全3回の連載です
- 第1回 戦略から個人まで、一段ずつつなぐ目標管理の実践
- 第2回 達成確率50%を、運用し続ける(この記事)
- 第3回 マネージャーを、経営者に育てていく(近日公開)
高い目標を掲げた人が損をしない。そのために、この会社は全員の目標の難易度を横に並べて見ています。そして、その運用を支えているのが、約100名のマネージャー全員が経営陣に進捗報告する場です。
第1回では、会社、部門、拠点、個人を一段ずつつなぎ直した過程を聞きました。今回は、そこで作り直した目標と、難易度に横ぐしを通す評価の仕組みです。
人事部のミッションは「いい目標づくり」
藤森: うちの人事にミッションとして出しているのは、全員が戦略を受けた目標をきちんと立てることです。まずは「いい目標づくり」。戦略に適合していて、達成確率が50%。目標はいくらでも変更していい。常に最新の状態で50%を意識することです。上期に余裕でクリアしたら、下期はもっと高くする。その代わり、達成したらその分高い評価をつける、そんな運用を一歩一歩定着させています。
——なぜ、50%なのでしょうか。
藤森: 変化、進化していてほしいからです。3回戦って3戦全勝よりも、10回戦って2勝8敗の方が良い。10回挑んで、失敗から糧を得てほしいんです。新しい経験で、自分の可能性を広げることが何より大事です。
藤森: 会社が進めている物流効率化には、多能工化が必要だと考えました。そのためには、キャリアの幅も広げないといけない。物流には、包装・梱包のプロも、トラックの運行計画を組むプロもいます。その専門性を持ちながら、別の仕事にも転用していく。そうすると、新たな知識やスキルがつき、専門性はさらに上がっていく。そのように会社の成長と個人の成長をつなげたいんです。
ここでいう50%は、期初に一度決めて固定する数字ではありません。状況が変わり、達成が容易になれば目標を置き直し、挑戦の水準を保ちます。
難易度を、横に並べて見る
藤森: たとえば100人いれば100人分の目標の難易度を、きちんと横で見たい。難易度が高い人が、結果として少し目標を達成できなかったとしても、難易度の低い目標を達成している人より、いい評価で報いたい。ただ、それを人間が見るのが大変なんです。
高い目標設定を勧めるだけでは、低い目標を確実に達成した人のほうが有利になりかねません。藤森さんは、個人を上司との縦の関係だけで見るのではなく、目標の難易度を横に並べて確かめる必要があると話します。
藤森: 戦略と人事施策を結びつけると言われますが、評価と人材配置は、組織に変化をもたらすうえで大きいと思っています。高い目標を設定してもらうなら、その難易度と過程を見て、評価や配置までつなげないといけません。
過程を、全員に見える場に置く
同社では、部長にあたる層を「ステージA」、拠点を預かるマネージャー層を「ステージB」、日常の運営責任者を「ステージC」と呼んでいます(第1回参照)。

藤森: ステージAは、毎月PDCA会議を開催しています。全員参加です。他部門のPDCAの報告も、全部長が聞く。社長からのアドバイスと部門間の取り組みが連動します。聞いていると、「それは、あの部長は知っているの?」という話も出てくる。最初はその場に担当の部長がいないこともあったので、全員が集まるようにしました。オンラインでもオフラインでも参加できます。
藤森: また、去年から始めて効果が大きかったのは、ステージBの約100名全員が進捗報告する、PDCA会議の拡大版です。第1四半期が終わったら1回目で、「そもそも何をやろうとしているのか」。第3四半期が終わったら2回目で、「期末までに達成できそうか」。これを経営陣全員で確認します。
——2日か3日くらい、かかるんですか。
藤森: 先日開催した時は12日間(全16回)でした。1人20分から30分かけて行います。全員が12日間ずっと出席するわけではなく、その日に報告する5人、8人が会議に参加します。誰が私にどういうことを言われているのかは、みんなに見える状態です。年間では約30回、50時間を超える時間をかけて行っています。
——人材育成も議題に入っていますか。

藤森: 入っています。数字はもちろん追求しますが、「どうやって仕事をしているのか」というところにも、かなり踏み込んで聞きます。「彼女は当初、そんなことを考えていなかったと思うよ」「以前はこういうキャリアを目指していたと思うよ」「どうやって育成するの」と。私自身が全員と1on1をしていたこともあり、上司を飛ばして入ってくる情報もあるので、上司と本人の認識がずれている時は、必要なら合わせにいきます。
藤森: 他部署の部長からマネージャーにアドバイスもします。でも、私が「そうじゃないんじゃないか」と思うことも出てくる。これは公式の会議なので、違うことを言っていれば、私が訂正する必要がでてきます。そうするとこれがまさに部長のOJTにもなるんです。
藤森: 厳しいことも言いますが、よくやっているところは、もちろん最初に言います。目標も状況も見えるので、あとになって「なぜあの部門は、あの人は、評価が高いんだ」となりにくいんです。年に1回だけ結果を合わせるのではなく、過程を見ています。

——最初から、この会議は機能しましたか。
藤森: 最初はみんな緊張していました。部長も緊張感があったと思います。ただこの場は、数字だけでなく、どう仕事をしているのかまで確認でき、報告する本人たちもアドバイスにより軌道修正が図れる点では、かなり機能していると感じます。アンケートもとっていますが、9割超が「やってよかった」と答えてくれています。気を遣ってくれているかもしれませんが(笑)。
年間50時間超の報告会は、目標の難易度を横比較するためだけの場ではありません。業績と人材育成を一緒に扱い、マネージャーの仕事と、その上にいる部長の助言を、途中で確認する場になっています。
経営が人事部に注文を出し、人事部が経営に返す
期中の運用を支えるもう一つの柱が、1on1です。ここでも、経営と人事部の関係が効いています。
——1on1の進め方は、どう伝えましたか。
藤森: 導入当初は、まず私がガイド動画を作りました。その後は、人事部が毎期1on1を検証してくれています。経営者と人事部がセットでやっているからです。
藤森: 人事部が推進役を取って、人事部から「では、お願いします」と言わせると、全く進まないと思います。「これは私が言っていることです」と、社長から経営陣をはじめ社員全員に重要性を伝えたり、実施を促したりしないといけない。四半期の境目など、節目には、人事部に「私の口から言ってほしいことはありますか」と聞くこともあります。経営のお墨付きがあると、進めやすくなります。
多くの会社で、目標や1on1の話は人事部からの一方的な通達として降りてきます。現場から見れば、事業とは別の、人事部の都合の話に見える。だから優先順位が下がります。
ここでは、経営が言っている話になっている。そのうえで、実務は人事部が受け持つ。そして、これが一方通行ではありません。経営が人事部に注文を出し、人事部が経営に言ってほしいことを持ってくる。どちらかがどちらかを動員している関係ではありません。
目標の難易度を横に見ることも、年間50時間超かけて過程を確認することも、運用には大きな負荷がかかります。それでも続けることで、目標、仕事の進め方、人材育成、評価を、別々の手続きにしない状態を作っていました。
次回は最終回です。この設計を、藤森さんがどうやって人に渡していったのか。責任を渡し、一緒にやり、そして手を離すまでの話をうかがいます。
この記事の土台になっている考え方の全体像は、パフォーマンスマネジメントとは何かにまとめています。体系的な解説はコレドウ・パフォーマンスマネジメント全書(抜粋版)へ。