コレドウ
評価運用

愚直に、戦略を具体にして浸透させる。——戦略から個人まで、一段ずつつなぐ目標管理の実践

(更新:) ・曽良 竜太 (コレドウ代表取締役)
愚直に、戦略を具体にして浸透させる。(記事のイメージ)

この連載について

目標を立て、日々の仕事の中で進捗を確認し、対話を重ね、年度末に評価する。言葉にすると当たり前ですが、これを実際の組織で機能させ続けるのは簡単ではありません。多くの企業では仕組みはあっても、目標が事業とつながっていなかったり、期初に立てた目標がそのまま放置されたり、運用がマネージャー個人の力量に任されていたりします。

では、実際にパフォーマンスマネジメントを効果的に運用している会社は、何をしているのか。この連載では、目標設定、振り返り(1on1)、評価といったパフォーマンスマネジメントを、手続きとしてではなく経営とマネジメントの中で運用している方々を訪ねます。完成された成功事例を紹介することが目的ではありません。どこでつまずき、何を変え、経営者や人事部門、マネージャーが何をやり続けたのか。実践の中にある具体を、一つずつ聞いていきます。

今回お話を伺ったのは、三越伊勢丹グループの物流会社、株式会社三越伊勢丹ビジネスサポート 代表取締役社長で、株式会社三越伊勢丹ホールディングス 執行役員の藤森健至さんです。インタビューには、コレドウの曽良と顧問の志水静香が参加しました。藤森さんのお話を、全3回でお届けします。

全3回の連載です

目標管理の仕組みはあった。それでも、目標は現場まで届いていなかった。藤森さんが最初に見直したのは、目標の書き方ではなく、戦略を具体にして下ろす順番でした。

まず、どんな会社なのか

——まず、会社について教えてください。

藤森: うちはグループの物流子会社で、売上のほとんどはグループが運営する百貨店の物を運ぶ仕事です。百貨店に対するシェアード事業として、利益の追求よりも、徹底的な効率化が目的の事業です。8年ほど前から、外部に向けた仕事で利益を作る外販事業を少しずつ拡大しています。

藤森: 百貨店の仕事では、これまでの長い歴史として「求められたことをミスなく正確に、期限どおりに実行すればマル」でした。それ以上の二重丸(想定以上の評価)を追求する必要性がそれほどなかった、と言えます。そのような高い目標を掲げる経験が少なく、どうしたら二重丸になるのか、イメージが湧きにくい会社でした。

高い目標を掲げる理由が、構造として存在しにくい会社でした。ここに、目標管理の仕組みが降りてきます。

目標管理の仕組みはあった。しかし、現場では「うまく」使われていなかった

——代表に着任されたとき、目標管理はどんな状態でしたか。

藤森: 目標管理の仕組みはちゃんとあって、「戦略から個人目標に落とし込む」という考え方もホールディングス人事部として発信をしていました。ただ、実際に現場を見ると、その考え方に沿った目標設定はなかなか行われていませんでした。ここまで通じていなかったのか、と痛感しました。

藤森さんは、この会社に来る前はホールディングスの人事部門の統括部長でした。仕組みを送り出す側にいた人が、それを回す側に移って使われていない現実に出会ったことになります。

最初にしたのは、原因の洗い出しだった

——そこから、どうされたんですか。

藤森: 「なぜこれができていないのだろう」と、部長たちと話しました。

藤森: まず、戦略が曖昧だったんです。イメージは分かるのですが、「どんな姿を目指して、何を、どのようにするか?」というのが、みんな分からない状態でした。つまり戦略骨子とアクションプランがはっきりしていなかった。そうすると戦略と個人の目標をつなげるのは当然難しくなりますよね。

藤森さんが最初に問題にしたのは、現場の目標設定スキルではありませんでした。個人の目標より上にある戦略が、実際の仕事へ移せるところまで具体化されているかを確かめています。

会社・部門・拠点・個人

経営の仕組みを整理した資料。中長期の目標を、年度計画、部門・拠点・個人へと落としていく(藤森さん提供資料)
経営の仕組みを整理した資料。中長期の目標を、年度計画、部門・拠点・個人へと落としていく(藤森さん提供資料)

藤森: 全社戦略から部門戦略があって、その次に、マネジメント層での拠点方針とアクションプランがある。それが初めて個人につながる。会社、部門、拠点、個人という順番です。これを今、愚直にやっています。3年かかってようやくです。一挙にやると混乱や破綻が起きますので。

——戦略づくりで、特に大変だったことは何ですか。

藤森: やっぱり、中長期戦略を練ることです。私も物流については素人だったので、経営メンバー8人全員で議論しました。2030年の営業利益について、当時の約4倍を目指すと決め、それをバックキャストで3か年や単年度計画に落としています。年度ごとに洗い替えをして、年度計画を作ります。今ある戦略で、売上や利益がどれくらいまで伸びるかは大体見えてきます。さらに新規事業として、どこに投資して、それでいくら稼げるか。それでも足りないとなったときに、別の事業をどう作るか。そこを考えるのが一番大変です。

藤森: 年度計画は、ホールディングスの全役員がいる場でグループ各社の社長が説明するものです。私にとって大きな役割の一つです。その会社の計画を受けて、部門、拠点、個人へとつないでいきます。

——拠点はどのように広がっているのですか。社員は全体で何名ほどでしょうか。

藤森: 社員は現在、全体で約600人です。拠点は全国に点在しているので、目の届かない拠点がほとんどです。だから、ステージA、B、Cそれぞれの役割を明確にし、各拠点マネジメントを自律的にまわせる体制づくりをしています。

藤森: 部長にあたるステージAは、会社の戦略を受けて部門の年度計画を作る。四半期ごとのアクションプランも作ります。拠点を預かるステージBには、「マネージャーじゃなくて、経営者になってほしい」と言っています。拠点の年度方針とアクションプランを自分で考えて、策定し、推進する。ステージCは日常の運営責任者で、アクションプランを実行し、課題解決をメンバーとともに推進する役割です。

ステージA・B・Cの役割。この順に、一段ずつ降ろした(藤森さん提供資料)
ステージA・B・Cの役割。この順に、一段ずつ降ろした(藤森さん提供資料)

藤森: ステージAの部長には、新規事業を創出する役割もあります。自部門戦略を策定し、発信し、経営目線をもつべきステージBそれぞれに定量目標、定性目標を配分して、具体的な目標にしていきます。

会社の中長期戦略、部門の年度計画、拠点の方針、個人の目標。それぞれの層に、考えて決める役割が置かれています。

一段ずつ実行した理由

——A、B、Cは並行して進めたんですか。

藤森: ステージAが会社戦略策定へ参画することが最初です。半年後に全国拠点を動かすための「ステージB経営」を発信し始めて、その半年〜1年後くらいに「ステージC運営」です。3年目くらいから会社全体に浸透し始めた感じですね。

藤森: 私は伊勢丹立川店の店長時代に痛い失敗をしています。部長とマネージャーを飛び越えて、現場を動かしている主任クラスによる「ステージC経営」(当時はそう呼んでいました)を推進しようとしたのですが、それはやはり無理がありました。

藤森: だから今回は、一段ずつです。何をやるにしても、ステップは「上から」が大事なんだと今は実感しています。上が下にやらせるのではなく、上が自分でやる。そして下にも求める。そういう形で進めています。

「ステップは『上から』が大事なんだと今は実感しています」
「ステップは『上から』が大事なんだと今は実感しています」

上の層を飛ばして現場だけを動かそうとした失敗が、いまの進め方につながっています。先に上の層が自分で実践し、次の層を指導できるようになってから下ろす。

——最初から3年間の計画を決めていたのですか。

藤森: なるべく早くやろうという全体像は引いていました。ただ、組織の状態を見ながらです。少人数で、みんながやる気に満ちている組織なら、一気に進めることもできると思います。でも、この会社では一段ずつ下ろしていきました。

半年ほどで次の層へ進み、その層が回っている状況をみながら、さらに次の層へ進む。あらかじめ決めた設計を一斉に導入したというより、各層が担える状態や、バラツキ具合を見ながら、接続する範囲を広げてきた3年間でした。

第1回で見えてきたのは、仕組みの有無ではなく、戦略がイメージできるように具体にすることと、組織を動かす順番の問題です。

次回は、そこで作り直した目標と、難易度に横ぐしを通す評価の仕組みをうかがいます。達成確率50%の目標を、期中もその水準に保ち続けるという設計です。

この記事の土台になっている考え方の全体像は、パフォーマンスマネジメントとは何かにまとめています。体系的な解説はコレドウ・パフォーマンスマネジメント全書(抜粋版)へ。

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