評価制度に、全部を載せなくていい——マネージャーの負荷が跳ね上がる構造
この記事の要点
- 「制度より運用」は、評価制度を否定する主張ではない。制度は必要で、問題は載せすぎること
- 一つひとつは筋の通った考え方でも、全部を一つの運用としてつなげるとマネージャーの負荷が跳ね上がる
- 論点は制度の中身を変えることではなく、何を制度として運用し、何を日常のマネジメントに溶かすかを決めること
僕はいつも「制度より、運用」と言っています。
そのせいか、評価制度そのものを否定していると受け取られることがあります。それは違います。評価制度は必要だと思っていますし、無くていいと言ったことは一度もありません。
「制度より、運用」とは、評価制度が不要という意味ではなく、運用がないところに制度を作っても回らず、運用でできることまで制度に載せると運用が潰れる、という順番の話です。
ただ、よくできた評価制度ほど現場で動かなくなるのを、何度も見てきました。今日はその構造の話です。
一つひとつは、どれも正しい
先日、ある会社の制度を見せていただきました。考え方はこうです。
- 成果は賞与に反映する
- スキルや能力は基本給に反映する
- 成果だけでなくプロセスも見る
- 1on1を通じて能力開発やキャリアにもつなげる
どうでしょうか。単体で見れば、どれも必要なことだと思います。成果と能力を分けて処遇に接続するのは筋が通っているし、プロセスを見るのも、キャリアにつなげるのも正しい。
僕が見せていただいたときも、一つひとつの考え方には納得しました。おかしなところは何もありません。
正しい考え方を全部載せると、なぜ運用が回らないのか?
ところが、実際には回っていませんでした。マネージャーが大変すぎる、と。
なぜかというと、これらをすべて一つの運用としてつなげようとすると、マネージャーが担うものはこうなります。
- 成果を追う
- スキルを定義し、評価する
- 成果とスキルを切り分ける
- 日々の業務のなかでスキル発揮を確認する
- 1on1で成長を支援する
- キャリアにつなげる
- 最後に処遇へ反映する
7つあります。しかもこれを、プレイングマネージャーが自分の数字を持ちながらやるわけです。
一つひとつが正しいので、どれも削れません。削ろうとすると「それは大事なことだから」と止まる。結果、全部を抱えたまま、全部が中途半端になります。
これは評価制度の設計ミスではありません。正しいものを、正しく足し合わせた結果です。
評価運用が定着しない理由はなぜ評価制度は「作っても回らない」のか——評価運用を定着させる設計でも書きました。
評価制度が回らないとき、見直すべきは制度の中身なのか?
中身より先に、必要なことを全部評価制度として運用する必要があるのかを整理します。
ここで多くの会社が、制度の作り直しに向かいます。項目を減らそう、評価基準を見直そう、と。
でも僕は、論点はそこではないと思っています。
必要なことを全部「評価制度として運用する」必要があるのか。そこを一度整理することのほうが先です。
必要かどうかと、制度に載せるかどうかは別の話です。大事だから制度にする、という反射をやめると、道が開けます。
何を制度で担い、何を日常のマネジメントに溶かすのか?
さっきの会社であれば、たとえばこう分けられます。
成果は、目標と達成基準を明確にして、期中に継続的に追う。ここは制度として仕組みが要ります。
能力は、別途スキル評価のための運用を増やすのではなく、日々の仕事や目標達成の過程から見えてきたものを蓄積する。評価の時期に改めて測りにいかない、というのがポイントです。
1on1は、評価項目を確認する場ではなく、成果を支援する場にする。そしてその過程で見えた能力や今後の成長を言語化する。
思想は何も変えていません。成果と能力を分けて処遇に接続するという考え方も、プロセスを見るという方針も、そのまま残っています。
日常のマネジメントを評価の形に翻訳し直す問題は日常のマネジメントを、わざわざ評価フォーマットに翻訳し直していないかに書きました。
変えたのは、それぞれをどこで担うかだけです。それだけで、運用の負荷はかなり下がります。
なぜ、評価制度に載せすぎるとまずいのか?
なぜ載せすぎがまずいのか。制度は、一度載せると外しにくいからです。
僕は前に、人事制度は作った瞬間ではなく給与に載せた瞬間に不可逆になる、と書きました(その人事制度、「作った瞬間」は完成でも、「給与に載せた瞬間」に失敗する)。処遇と接続した瞬間、それは約束になります。
日常のマネジメントで扱っているうちは、やり方を変えるのも、やめるのも簡単です。制度に載せた瞬間、変更には手続きが要り、説明が要り、合意が要る。
だから載せる前に、本当に載せる必要があるかを問う必要があります。載せてから減らすのは、載せるより何倍も大変です。
評価制度は、大事です
もう一度書きます。評価制度は大事です。
何を評価するかを決めるということは、この会社で何が良しとされるのかを決めるということです。それは処遇の話であると同時に、文化の話でもあります(バリューは作るものではなく、出てくるもの)。だから、いい加減に作っていいものではありません。
僕が「制度より、運用」と言っているのは、制度が要らないという意味ではなく、順番の話です。運用が無いところに制度を作っても回らない。そして、運用でできることまで制度に載せると、今度は運用が潰れる。
大事だからこそ、何を載せて、何を載せないかを決める。それは人事の作業ではなく、経営の判断だと思っています。
何を残し、何を溶かし、何をやらないか
まとめます。
制度が回らないとき、原因は制度の中身にあるとは限りません。必要なことを全部、制度として運用しようとしているだけかもしれない。
- 何を仕組みとして残すのか
- 何を日常のマネジメントに溶かすのか
- 何をそもそも運用しないのか
この3つを決めるところから始めると、思想を損なわずに負荷を下げられます。そして、この整理は現場ではできません。何を評価しないかを決めるのは、経営にしかできない判断だからです。
目標・対話・評価を回し続けることをパフォーマンスマネジメントと呼びますが、その中で制度が担うのは一部です。全部を制度でやろうとした瞬間に、回らなくなります。
よくある質問
評価制度が回らないとき、制度を作り直すべきですか?
原因は制度の中身とは限りません。必要なことを全部、評価制度として運用しようとしているだけかもしれません。何を残し、何を日常のマネジメントに溶かし、何を運用しないかを先に決めます。
「制度より運用」は、評価制度は不要という意味ですか?
いいえ、評価制度は必要だと考えています。順番の話で、運用が無いところに制度を作っても回りませんし、運用でできることまで制度に載せると今度は運用が潰れます。
評価制度でマネージャーの負担が重いときは、どうしますか?
成果は目標と達成基準を明確にして期中に追い、能力は評価の時期に測り直さず日々の仕事から蓄積します。1on1は評価項目を確認する場でなく成果を支援する場にします。
この記事の土台になっている考え方の全体像は、パフォーマンスマネジメントとは何かにまとめています。体系的な解説はコレドウ・パフォーマンスマネジメント全書(抜粋版)へ。