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目標管理

MBOはなぜ形骸化するのか——300社に聞いて、回っていたのは1社だけだった

(更新: 曽良 竜太 (コレドウ代表取締役)
MBOはなぜ形骸化するのか——300社に聞いて、回っていたのは1社だけだった

この記事の要点

  • MBOが形骸化する原因は「目標の立て方」ではなく「回し方」にある。立てて終わり/評価制度とマネジメントの主従逆転/続けられない構造、の3つ
  • 300社以上に聞いて「評価に課題はない」と言い切ったのは1社だけ。その会社がやっていたのは、1on1をちゃんと回すことだった
  • 立て直しの起点は、目標にアクションプランまで握ること。粒度が粗いままだと「今どうなってる?」の対話が成立しない

コレドウを始めてから、いろんな会社に「MBO(目標管理)、うまくいってます?」と聞いて回ってきました。多分300社は超えていると思います。そのうち「目標も評価も、特に課題はないです」と言い切った会社は、正直、1社だけでした。

不思議なんですよね。みんな評価制度はちゃんと持っている。目標シートもある。評価面談もやっている。なのに、ほとんどの会社で「MBOが形骸化している」。冷静に考えると、おかしな話じゃないですか。

今日はその「なぜ形骸化するのか」を、僕が見てきた範囲で3つの原因に分けて書きます。そして後半で、その1社が何をやっていたのかを書きます。先に言ってしまうと、答えは目標の中にはありませんでした。

そもそも、MBOの「形骸化」とは何か

形は残っているのに、中身が動いていない状態のことです。

目標シートは存在する。面談もやっている。でも、目標が日々の仕事の指針になっていないし、評価にも納得感がない。書類の上では制度が回っているように見えるから、逆に問題が見えづらい。ここがやっかいなところだと思っています。

壊れているなら直せます。形骸化がしんどいのは、**壊れていないように見えること**なんですよね。毎年ちゃんと目標は集まるし、評価も締め切りまでに揃う。人事の目線では、業務としては成立している。だから「今年も無事に終わりました」で片づいてしまう。

原因1:目標が「保管」されている

いちばん多いのがこれです。MBOは本来、目標によって人が動くようにする仕組みです。目標を管理することがゴールではない。なのに実態は、管理ですらなく保管になっている。

期初に立派な目標を立てる。でも立てた瞬間にゴールしたような気になって、あとは放置。半年後、評価の時期になって「そういえば、目標なんでしたっけ?」と引っ張り出してくる。ヒアリングでいちばんよく聞いたのが、まさにこの光景でした。評価をするために、目標を思い出すところから始まるんです。

順番がおかしいですよね。目標があって、それを追いかけた結果があって、評価がある。なのに実際は、評価という締め切りが来て初めて目標が発掘される。

しかも、こうなると目標は評価の材料にすらなりません。半年間なにも見ていないので、その間に何があったかの記録が存在しないんです。材料がないところから点数をつけるので、印象と直近の出来事で決まってしまう。目標は人を動かす役にも立たず、評価の役にも立たず、ただ保管されていたことになります。

目標が無くても目先の仕事は回るので、優先度はどんどん下がっていきます。目標って本来、立てるイベントじゃなくて、日々のマネジメントの中で擦り合わせ続けるものだと思っています。ここがズレていると、どんなに立派な目標も飾りになります。(目標を組織の共通言語に戻す話は目標管理とは、評価のための作業じゃないに書きました。)

原因2:評価制度が主、マネジメントが従に逆転している

2つ目は、もう少し構造的な話です。主役と脇役が入れ替わっています。

本来はマネジメントが主役で、評価制度は「その結果をどう処遇に反映するか」という従であるはず。なのに多くの会社では、これが逆転しています。目標も評価も「給与を決めるための、人事の作業」になっていて、マネジメントの中心から外れてしまっている。

こうなると目標管理は事務手続きになります。普段は誰も目標を見ていないのに、評価の時期だけ引っ張り出して点数をつける。そして現場から「評価の季節が来た」という声が出る。季節が来るものは、仕事ではなくて行事なんですよね。

この主従の逆転、本当に多いんです。そして厄介なことに、逆転しているという自覚がない。人事は「制度をちゃんと運用している」と思っているし、現場は「言われた作業をやっている」と思っている。誰も手を抜いていないのに、全体としては空回りしている。

原因3:運用がマネージャーの気合いに依存している

3つ目は運用負荷の問題です。仕組みではなく、個人の善意で支えられています。

目標の確認も、進捗のフォローも、振り返りも、ぜんぶマネージャーの気合いに乗っかっている。しかも日本の現場はプレイングマネージャーだらけで、自分の案件を抱えながらマネジメントも兼務している。これをフルでやりきるのは、正直しんどい。

だから忙しい時期から順に運用が抜け落ちて、気づけば期末だけになります。ここで大事なのは、**抜け落ちる順番が決まっている**ことです。緊急でないもの、締め切りのないもの、やらなくても誰にも怒られないものから消える。目標の確認は、その筆頭なんですよね。

形骸化は「現場の意識が低いから」起きるんじゃなくて、「続けられない構造だから」起きる。気合いより設計の問題なんだと思っています。

では、その1社は何が違ったのか

ここからが本題です。300社以上に聞いて、ただ1社だけ「評価に課題はない」と言い切った会社がありました。何が違ったのか。

**1on1をちゃんと回していたことです。**

正直に言うと、これは予想していた答えではありませんでした。回っている会社は目標の書き方が上手いのだろうとか、評価制度がよくできているのだろうとか、そういう仮説を持って聞きに行っていたんです。でも違いました。目標の様式にも評価制度の作りにも、他社と大きな差はなかった。差があったのは、期中に対話があるかどうかだけでした。

1社の話なので、これを法則だと言うつもりはありません。ただ、300社のうち299社が課題を抱えていて、抱えていない1社だけが期中の対話を持っていた。この偏りは、さすがに偶然ではないと思っています。

そしてその会社では、順番に効果が出ていました。

まず、目標が定まる。上司と部下が定期的に話しているので、「これは本当にやるべきことなのか」が期中に何度も検証される。ズレていたら直る。だから期末に「そもそもこの目標、意味あったんですか」という話にならない。

次に、評価が定まる。日々の仕事を見て話しているので、期末に評価をつけるとき、材料を探す必要がない。評価者が迷わないんです。

そして、すり合わせが要らなくなる。ここが決定的でした。期末に上司と部下の認識をすり合わせる作業そのものが、消えるんです。すでに擦り合っているので。

(この会社の話は200社で唯一「評価に課題はない」と言い切った会社の、たったひとつの共通点に詳しく書きました。ヒアリングが200社の時点で書いたものです。)

なぜ1on1があると、目標は形骸化しないのか

目標を開く理由が、評価以外にできるからです。

形骸化した会社では、目標シートを開く理由が年に2回しかありません。書くときと、点をつけるとき。それ以外に開く動機がないから、保管されるんです。

1on1があると、開く理由が毎月なり毎週なりに増えます。「今どうなってる?」を話すために目標を見る。評価のためではなく、前に進めるために見る。同じシートでも、開く目的が変わると扱いが変わります。

つまり形骸化は、目標そのものの問題ではなかったんですよね。**目標を見る機会がないことの問題**だった。だから目標の書き方を改善しても直らないし、評価制度を作り直しても直らない。直るのは、期中に対話が入ったときだけです。

これは僕がパフォーマンスマネジメントという言葉でずっと書いていることと同じです。期初と期末という2つの点があって、そのあいだに線がない。線を引く道具が1on1なんです。

立て直しは、目標にアクションプランまで握ることから

では1on1を始めれば解決するかというと、そう単純ではありません。順番があります。

先に目標をしっかり作る必要があります。しかも、アクションプランまで握るところまで。

理由はシンプルで、粒度が粗い目標だと対話が成立しないからです。「売上1億」だけが書かれた目標シートを前にして、月次の1on1で何を話せばいいのか。「進捗どうですか」「まだです」で終わってしまう。これを何回か繰り返すと、1on1のほうが先に形骸化します。

目標の中に、そこへ至るマイルストンやアクションプランまで入っていると、話す材料ができます。「先月の商談数はどうだった」「このアクションは効いてる?」「ここが詰まってるなら、どう外そうか」。**今どうなっているかを話せる粒度になっているかどうか**で、1on1の中身が決まります。

順番をまとめると、こうなります。

  • 目標を、アクションプランまで含めて作る
  • それを見ながら、期中に定期的に話す
  • 話した結果として、期末の評価が決まる

逆から手をつけると失敗します。評価制度を直しても目標は良くならないし、目標が粗いまま1on1だけ導入しても雑談になる。(1on1が雑談で終わってしまう場合の話は1on1で話すことがなくならない人は、何が違うのかに書きました。)

評価制度を作り直しても、形骸化は直らない

ここでありがちな間違いが、「形骸化したから評価制度を作り直そう」という発想です。

でも項目を増やして定義を細かくするほど、現場の負荷は増えて、もっと形骸化します。箱にゴミを入れてガチャガチャ振っても、ガンダムは出てこないんですよね。複雑にすること自体が原因なのに、さらに複雑にして直そうとしている。

しかも作り直しには半年かかります。その半年、現場では相変わらず目標が保管され続けている。そして新しい評価制度が完成した頃には、作った人が異動していたりする。

防ぎ方はむしろ逆で、評価制度はそのままに、運用を日常に溶かすことだと思っています。

  • 目標を期初の一発勝負にせず、月次・週次で軽く擦り合わせる
  • 評価のためでなく、前に進めるために目標を見る習慣をつくる
  • マネージャーが続けられるよう、確認や振り返りの手間そのものを減らす

実際、これを1on1の中でやるようにしたら、評価のときに「いつも話してる内容ですもんね」で済むようになった、という話をよく聞きます。評価が「最後に点数をつけるイベント」から「日々の対話の確認」に変わるんですよね。(評価のイベント化については評価が「イベント化」する理由と、日常に戻す方法で詳しく書いています。)

まとめ:MBOは「立て方」より「回し方」

MBOが形骸化する原因は、①目標が保管されている ②評価制度とマネジメントの主従逆転 ③続けられない構造、の3つ。どれも目標の「立て方」じゃなくて「回し方」の問題です。

そして300社に聞いて回って、課題がないと言い切った1社がやっていたのは1on1でした。目標の問題は、目標をいじっても直らない。期中に目標を開く理由をつくったときにだけ直ります。

僕らがコレドウで作っているのも、まさにここです。複雑な人事制度と日々のマネジメントの接続をAIにやらせて、忙しいマネージャーの手間を少し肩代わりする。MBOを「やりっぱなし」で終わらせないための、運用の土台をつくっています。

でも、これはあくまで土台です。ちゃんと目標を立てて振り返る運用ができると、そこに共通言語が生まれて、文化になって、エンゲージメントが上がって、働くのがちょっと楽しくなる。僕が本当に作りたいのは、その状態なんですよね。世界は誰かの仕事で出来ているので、その仕事が良くなったら、世界はもう少しだけ良くなると思っています。

(その「運用の土台」を、AIの伴走で作っているのがコレドウのプロダクトです。)

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